天気と歯の痛みについて思うこと

古傷が痛むと雨が降る

雨が降ったり、台風がくると頭が痛い、肩がこる、体調が悪い・・・当院にこられる患者さんから聞くことがあります。私自身も経験があります。みなさんもきっとあることでしょう。

日本では昔から「古傷が痛むと雨がふる」といわれています。

天気が悪いと体調不良になる、歯が痛くなる人、疼く人もいます。お天気と体調は深い関係があるのは間違いないのですが、歯科医師の視点から、お天気と歯痛の関係についてちょっと考察してみたいと思います。

天気予報は各地の気圧の測定結果に基づきます。

まず最初に気圧について簡単に説明します。

気圧とは、気体の圧力の意味ですが、一般的に空気の圧力である大気圧のことを気圧と呼びます。これは空気の重さによる圧力です。上に乗っている空気の量により変わりますので、地表からの高さ、空気の動きで変化します。

気圧はよく高気圧、低気圧と表現します。気圧が低いということは、わかりやすい例ならば、高い所です。山の上や飛んでいる飛行機の中です。上にいけば行くほど気圧は下がります。

ちなみに、気圧は海面上を1気圧とします。海面上が高度0mだからです。そして1気圧=1,013hPa(ヘクトパスカル)と定められています。このヘクトパスカルという単位はテレビの天気予報でもお馴染みでしょう。

全国各地、海上、外国で測定される気圧の数値(海上の場合に換算)を、地図上に記し、同じ数値を線で結んだものを等圧線といいます。等圧線が描かれた図を気圧配置図といいます。

風というのは、気圧の高いところから低いところに流れ込むためにおこります。風が吹く、というよりは、吸い込まれる、という表現が適切です。つまり気圧配置から風向きが予想されるわけです。

このように、風向きや大気の温度、状態から予想されるのが天気予報で、そのもとになっているのは気圧なのです。

体調に影響を及ぼすのは、天気の良し悪しではなく、気圧の変化です。

日本人にとって悪天候の代表といえば台風です。台風というのは熱帯低気圧です。ハリケーンやサイクロンも同じ熱帯低気圧です。発生する地域によって 名前が異なります。台風の強さは風速と大きさで表現されますが、中心気圧の数値も天気予報では示されます。昔はミリバール、今ではヘクトパスカル (hPa)という単位です。台風の強さというのは風速や大きさによりますが、中心の気圧の数値が低いほど強いといえます。台風の周りと台風圏内の気圧の差が大きければ大きいほど、それだけ風が強くなるというわけです。

台風がくるということは、台風のエリア内では気圧が下がるということはご理解いただけたと思います。

一般的に、気圧は、10m高くなるごとに大体1hPa下がります。ですから、 例えば台風の中心気圧が950hPaというこのは、地上630mの高さの場所と大体同じ気圧ということです。この高さは、東京スカイツリーの高さ(634m)とほぼ同じですね。

では、東京スカイツリーの展望台まで、エレベーターで一気に上がると・・・多くの方が経験あると思いますが耳がキーンとなったりしますね。これは鼓 膜の内側と外側の気圧のバランスが崩れるために起こるもので航空性中耳炎といいます。中耳炎という名前ですがこの場合は炎症ではないのでご注意を。これは鼻をつまんでつばを飲み込んだりして耳抜きすれば治ります。

山ではどうでしょう?富士山は標高3,776メートル。山頂では約377,6hPaも地上より低くなっています。地上の3分の2ほどの気圧しかあり ません。山で体調が悪くなるといいますと、まっさきに思い出されるのが高山病だと思います。高山病ときくと、高いところは酸素濃度が薄いから・・・じつは 富士山の山頂も地上も酸素の濃度は変わりません。大体21%です。しかし、気圧が違うので、空気の密度自体が低く、単位容積あたりの酸素が少ないのです。ちょっとややこしいですね。

気圧の変化で体調に変化が出ないほうが不自然な気もしませんか?。

では、歯が痛むことはあるのでしょうか?

歯科の専門用語で、航空性歯痛という言葉があります。長時間飛行機に乗っていると歯が痛くなることがあります。飛行機の機内は、常に約0.8気圧と地上よりも20%低い気圧にに保つように設計されています。航空性歯痛は、上顎洞とよばれる鼻の両サイドにある頭蓋骨の中の空洞部分の内圧が増すことで、歯の神経を刺激するために起こるものとされています。実際に歯に問題があるわけでなく、歯が痛いと感じる神経を刺激してしまうこともあるのです。

Maxillary sinus

ですから、天候の変化で歯が痛くなることは、確かに、あると思います。しかし、天気が悪くなって歯が痛くなったから歯医者にいく人は少ないと思います。おそらく一時的な痛みでしょう。

気圧の変化による体調不良というのは、気圧が変化することで神経(特に自律神経)に影響を与えるためといわれております。もちろん歯の中には、歯髄とよばれる神経がありますので、そこが影響を受けて痛みを感じることがあるのかもしれません。

スカッと晴れた青空を見れば、気分は爽快になりますが、どんよりと暗くたちこめた雲をみればテンションが下がる人が多いように、目で見たものも、つまり視神経を経由し、気持ちに影響を与えます。匂いも同じです。ですから気圧と神経について掘り下げるとキリがありません。歯科医師の視点から、もう少し単純に考えてみたいと思います。

歯の内側には空洞があります。

一般的に歯の神経として知られている部分は、歯髄といいます。歯の断面図をご覧になられたことがある方は少なくないと思いますが、歯髄があるところが空洞になっていると思われている方はきっと少ないでしょう。

歯髄腔

この歯髄腔の中の気圧は、普段は外の気圧と一定になるように保たれています。急激な気圧の変化があれば、歯髄腔の中の気圧と差が生じてしまいます。気圧が低くなれば、歯髄腔の中の気圧が高くなってしまいますので膨張しようとします。その場合、歯の神経が入っているところなわけですから、痛みにつながる可能性はあります。

とはいいましても、歯は固いので健康な歯であれば、気圧の変化は受けにくいものだと思います。

では、気圧の変化で歯が痛みやすい人の歯はどのような状態なのでしょうか?

むし歯の治療している歯は、金属ないし樹脂にて削った部分を覆っています。

虫歯を残していると・・・虫歯菌にとってお口の中は最高の環境です。温度、湿度、栄養分と菌が繁殖するのに好条件です。だから、詰め物にちょっとでも隙間があると、中に入り込みこみ、また虫歯を作ります。でも表面は金属、樹脂などで詰められているので、わかりにくくなっています。

また、何もしていない天然歯の場合、虫歯などがあると、そこには隙間が出来ます。その隙間に空気や虫歯菌が入り込みます。昔は、虫歯菌は穴を開ける時、工事をしているとかいわれていました。現代では、その理論も多少違ってきまして、虫歯菌がコロニーというバイオフィルムを作ってその中で生活しながら、穴(歯科用語で実質欠損といいます。)を作るといわれています。穴というより歯の質を溶かすと言ったほうが正解かもしれません。溶かすのですから、当然柔らかくなります。柔らかくなるので密度も低くなりますね。そうなると更に溶けてしまうのです。そこで出来るのが、先程でてきた実質欠損です。
穴が空いた部分は、仕方がありません。取り敢えず痛くないのならば、歯医者さんに行くのも嫌な事だし、様子をみているとします。

さて、話を歯の種類に戻します。

神経を処置した歯とは、わかりますか?

歯には、歯髄と呼ばれる神経があります。その歯髄は、根管といわれている長い管とも繋がって知覚と呼ばれる神経に繋がっています。神経が残っている歯で、歯が痛くなるということは、虫歯で痛くなるので、かなり進行した状態です。

今では、神経に達する虫歯でもMTAと呼ばれる材料が神経を残してくれます。では、虫歯菌で侵されて痛くなってしまった歯は、残念ですが、神経をとってしまうことになります。神経を取るというのは、歯髄といわれている部分と根管といわれている管の部分までの範囲です。全部ではないのです。神経を処置した歯でも咬んだら感じますよね。神経を取るのは、その手前までなのです。

それ以上神経を処置してしまいますと、当日、神経を処置したのに痛くなる事があります。俗にいう打診という嫌な感じが残るといわれています。勿論、その手前まででも起こる場合もありますが。

物を咬んだら噛んだ事がわかる組織、感覚受容器というものがあります。それが丁度神経の先(歯科では根尖と言います。)まで、お薬を入れて行く事を根管治療といわれています。

歯の神経の頭、歯髄は、直ぐに削り取れますが、根管といわれる管は別です。長い根管では、20ミリ(約2センチ)位長いのもあり、また、曲がったりしているのもあります。

ズバリ、根管内の神経を取ることは簡単なことではありません。難しいのです。

でも現在では、神経を機械で一気に取りさる方法が確立されています。

ここからが大事です。

神経を処置した歯は、痛みを感じにくくなっています。

ある程度まで根充剤と呼ばれるお薬を入れておけば直ぐには神経を処置した歯は痛くならないのですが、それは隙間があっても痛くはなりません。また、根管が空洞でも通常では痛くない事もあります。

さて、こんな隙間に空気が入っていたとします。

天気が悪い(=低気圧)ときは、中に入っている空気は膨張します。

逆に気圧が高いのは、海面上が基準となる1気圧ですので、その下、すなわち水面下です。水の中ですから、いわゆる水圧とよばれるものです。

10mで1気圧分加算されます。海面上は大気圧による1気圧で、そこに1気圧分プラスになるので,水深10mでの水圧は、2気圧に相当するわけです。

地上の倍の圧力がかかるんですね。このような気圧が高い状態では、歯の中の空気は圧縮されます。

不思議と圧縮される場合は、隙間の空気も小さくなるので、隙間は他の滲出液で例えば虫歯ならば、だ液、根管内では、大きなのう胞などの膿がある場合は、浸出液が収縮します。

気圧の変化でお口の中はこの様な状態になるのです。それが痛みを伴うものもありますがなんとなく違和感、またまだ大丈夫。といって違和感もない場合もあります。

気圧の変化に耐えることが出来るような歯の状態を維持するには?

まず 第一には、虫歯があれば虫歯の治療。なるべくなら神経は残しておいた方が良いものです。(きっぱり) もしも、治療した歯の隙間が痛くなったら、レントゲン写真撮影して虫歯の確認。現在では、マイクロスコープという歯科顕微鏡があります。5倍~30倍位まで拡大さらに録画出来る装着があります。(それ以上の拡大録画も出来ますが、暗くなります。)それで確認すれば隙間の虫歯もわかります。また、MTAなどで直接覆罩を使用すれば神経は残せるかもしれません。

ただ、実質欠損といわれている虫歯の場所は、残念ながら最小限に削って詰めておいた方が良いと思います。(これもきっぱり)そこには、気圧の変化に左右される空気が入っている事があるからです。

では、神経を処置した歯はどうでしょう?

根管内は神経組織がなくなって空洞になっています。通常、歯科医院では、何かしら細菌が繁殖しない様な薬(根管治療薬)を入れておきます。でも、根管治療薬と言われている薬は通常は液体です。そのままにしておけばどんな薬でもある程度までは、気圧に耐えられる様にはなっているかとも思います。痛くなくても根管内のお薬は濃度が根管内細菌により少しずつ薄まっていきます。

これは、どんな薬でも同じです。根管内に詰まっている薬の変化は、時間の経過とともに濃度が変わるので、気圧の変化に左右され易くなります。

痛みを感じる感覚受容器は、根尖とよばれる歯の根っこの先っぽにあります。従って単純に根管内に根管治療薬が入っているだけですと、気圧の変化により、漏れ出たり(これは、痛みが出る場合もあります。)するわけです。 漏れ出た滲出液は、感覚受容器を刺激してしまいます。

それが、気圧の変化では左右されるのです。それが、飛行機に乗ると歯が痛くなる、ダイビングすると疼く、などといった症状として出るのです。

では、どうすれば、気圧の変化でも神経を処置した歯が痛くならないのでしょう?

答えは実にシンプルです。

根管内をしっかりと密に根充剤やMTAと呼ばれるお薬で埋めてあげれば良いのです。もちろん隙間がないようにです。さらにそのお薬は液体では無くて固体やコンクリートの様な物です。

その手順について説明します。

まず、準備として治療する歯を、お口の中にいっぱいいる菌と完全に分離させます。ラバーダムというものを用いるのですが、そうですね、建物でいうと工事中の養生シートみたいなものをイメージしてください。これをラバーダム防湿法といいます。

そのラバーダムを使用した上で、根管内の清掃作業をします。細菌が完全にいないキレイな管にしないといけません。暗くて細くて複雑な管の清掃作業、これにはマイクロスコープが必要です。肉眼じゃ見えませんし、完全な清掃はほぼ無理です。

そうして綺麗になった根管の中を、空気、液体が入り込む隙間がないように確実に塞ぎます。それには固体の薬をしっかり埋め込む作業がとても大事なことになります。
こうして根管に隙間なく固体が埋まっていれば、細菌や膿も溜まる事もなく、気圧の変化にも左右されない神経を処置した歯が出来上がります。

神経を処置した歯の治療法をお話しします。

当院では、残念ながら神経を処置せざるを得なかった歯に対して(抜髄根管治療と呼びます。)歯髄、根管内の神経をお薬を使わずに機械的に清掃して除去していきます。空洞になった歯髄腔、根管に薬が入る隙間を作ります。勿論、予め、ある道具で根尖の位置を確認しておきます。特殊な機械を使って根管を拡大します。(根管形成と呼びます。)

ラバーダムから入る作業、これらは全て痛くない麻酔処置をしてから行なう作業ですから、大体60分位かかります。拡大した根管内に次亜塩素酸と生理食塩水でくどい様に細菌を洗い流します。さて、神経を処置した日から2回目、再度、麻酔をしてから、ラバーダム、根管の明示、マイクロスコープでの根管の中の汚れ具合の確認。消毒、ガッターパーチャーと呼ばれる材料で根管内を詰めます。当院では、予めこのガッターパーチャーを温めて柔らかくしております。曲がった根管にも綺麗に入り込みます。更に、根尖部といわれてる所は、複雑に分岐しているといわれています。温めた固体のガッターパーチャーだけでは心配です。そこで、シーラーと呼ばれる固まる液体をこの固体と組み合わせます。これで、根尖の複雑な所まで、薬を入れていくのです。

そうする事で、空気の入らない密な根管治療が出来る事になります。

抜髄根管と呼ばれる神経を処置した歯の治療法はこんな感じです。

では、最も複雑な感染根管についてです。つまり、既に何かしらの薬が入っているのですが、さらに、空洞もある場合です。これは、成功率も下がり通常は難しい治療です。
現在では、MTAと呼ばれる無機質の材料が革命的良好な成果をあげていますが、大事なのは、感染物を完全に除去するという作業です。具体的には、マイクロスコープなどの拡大機器で根管内に見える汚れを徹底的にキレイにしていきます。
根管内がきれいになれば、感染源がなくなる訳ですから治療としては、成功です。
肉眼やルーペの治療では、感染源が残っているかどうかは、見えないので分かりません。(これは、現実です。)
悪い部分が見えれば、当然治せる可能性はかなり高くなります。
治療の成功率が上がります。

これら根の痛みから解放されるのを私達、歯医者は、望んでいます。
マイクロスコープでの見える根の治療(マイクロエンド)ならび、MTAを使用しての根充法は、保険適応になっていません。
従って、被せる材料が全て自由診療になってします。
費用はかかりますが、本当に確実な治療法です。

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世田谷区の松原(明大前~下高井戸エリア)で高倉歯科マインドクリニックを平成元年に開業しました。マインドというのは、患者さんの気持ちに応える医者でありたいという強い思いを込めています。 歯でお悩みの方がいたら一人でも多く助けてあげたい、地域医療へ貢献したい、そして、日本一の「街の歯医者さん」になるために日々診療にはげんでおります。

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